賃貸借の契約は売買とは異なり、契約が続く限り、貸主と借主の関係は保たれることになります。そのような関係性のなか、どちらか一方が破産してしまうということも大いにありえることです。
借主の企業が破産した場合は契約の解除の対象になるため、契約はそのまま解除されますが、問題は貸主が破産してしまった場合です。ここで生じる疑問としては、「貸主が破産したら、借主はすぐに退去しなくてはいけないのか」ということ。
この事については、契約前の重要事項説明でも説明するのですが、貸主の破産という事は、契約・重説時点では考えづらいことですので、お客様は、流して聞いてしまいがちです。いざという時に、重要ですので、改めてご説明をしたいと思います。
すぐに退去はしなくていい
結論からいうと、すぐに退去することはありません。
ただし、ずっと使用し続けられるかというと条件によって変わってきます。直ちにということはありませんが、条件や状況によっては退去せざるをえなくなる場合があります。その条件で重要なのは、賃貸借物件の引渡しの時期と抵当権の設定登記の時期です。重要事項説明ではその点について説明をします。
引き渡しと抵当権設定登記の先後
引き渡しとは、賃貸借契約を締結し契約が開始された時点のことをいいます。また、抵当権の設定登記とは、貸主が金融機関から借入をする際に物件を担保とし、金融機関が抵当権を登記した時点のことを指します。これらの事象のどちらが先かということが、貸主が破産したときに非常に重要になってきます。
①賃貸物件の引渡しが先行
借主への賃貸物件の引渡しが、金融機関の抵当権設定登記よりも先だった場合。
つまり、借りた時は貸主は借入がなくて物件も担保とされていなかったので、借主が入居した後に貸主が金融機関からお金を借りたということになります。借主からすればそのことを知る機会は少なく、知りえない場合がほとんどです。この場合、借主は金融機関に賃借権を対抗できます。したがって、貸主が破産して競売が行われたとしても、これまで同様の契約内容で物件を使用し続けることができます。
- 破産開始から競売まで
貸主が破産開始の決定を受けた後は、賃貸物件の管理処分権は、破産管財人が所有します。貸主が破産しても残りの契約期間は契約が存続することになり、破産管財人に賃料を支払うことになります。 - 競売後
競売にかけられた後、借主は、新しい所有者にも賃借権を主張することができますので、新しい貸主として、これまでと同様の契約内容で使用し続けることができ、新所有者に賃料を支払うことになります。
②抵当権の設定登記が先行
抵当権設定登記が先に行われていたば場合。
つまり、借りた時にはすでに物件に抵当権が付いていて借主もそれを承知の上で契約を締結していることになります。この場合、借主は金融機関に対して賃借権を対抗することができません。したがって、競売が行われた後、新しい所有者から退去を求められたら、退去せざるをえなくなります。
- 破産開始から競売まで
これについては上記①の1と同じです。
このケースにおいても、賃借権の劣後に関係なく、破産管財人は賃貸借契約を解除することはできません。なので、競売されるまでは、破産管財人に賃料を支払います。 - 競売後
競売が行われると、賃借権は原則として消滅しますので、競落人から退去を求められた場合は退去しなくてはなりません。
明渡猶予制度
冒頭でも明記したとおり、上記の②の場合でも、すぐに退去する必要はありません。
平成16年の民法改正で、短期賃貸借制度が廃止されて、明渡猶予制度が認められています。これは新所有者が物件を買い受けた日から6ヶ月間の間、明渡しを猶予されるという制度です。したがって、すぐに出て行かなくてもいいのです。
※短期賃貸借制度の廃止についてはこちら「短期賃貸借制度の廃止について」で詳しくご説明しております。
終わりに
今回の記事のことをお話すると、大概の方は、抵当権設定がされていない物件を希望されるかと思います。しかし、オフィスビルなどの大規模建築物では、そのような物件はめずらしく、ほとんどないでしょう。それだけを重視して探すとなかなか物件が見つからないということになってしまいます。
賃貸事務所を借りるお客様にとって、抵当権設定登記だけは注意しても、何もすることができませんので、実際に借りる際に、抵当権が設定されているかどうかだけを確認しておくだけで結構です。そして入居後に万が一の事が起こっても、すぐに退去する必要はないということだけ覚えておいていただければいいと思います。
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