民泊はオフィスビルやマンションでできるのか。

民泊はオフィスビルやマンションでできるのか

この数年、「民泊」という言葉をよく聞くようになりました。

個人宅やマンションを宿泊用として貸して収入を得るビジネスとして注目されていますが、その背景には、近年急増している外国人観光客の宿泊施設不足や「Airbnb」を筆頭に世界的民泊仲介サイトで簡単に宿泊希望者を募集できるようになったことが挙げられるでしょう。

また更に、これまで民泊営業をするにあたって高い壁となっていた旅館業法の規制緩和も影響しているのでしょう、当社にもオフィスビルを民泊事業として借りたいというお問合せが増えたように思います。

しかし、民泊ビジネスを始めるには、旅館業法以外にもクリアしなければいけないハードルや問題が、まだまだあります。今回は、問題点や法律、オフィスビルを民泊施設として貸し出せるかどうか等、今話題の民泊について書いてみたいと思います。

 

旅館業法の許可

まず問題となってくるのは、旅館業法。

この法律は簡単にいうと、宿泊料をとって、人を泊めることを継続して行う場合に該当しますので、民泊も旅館業法の条件を満たしていないと違反していることになり、罰則の対象となります。

民泊施設は旅館業法の「ホテル営業」「旅館営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の4種類の内、「簡易宿所営業」に該当するため、営業許可が必要になります。

 

旅館と貸室

旅館業(民宿・ホテルなど)と賃貸業(アパートやマンションなどの貸室)の違いは、旅館業では、室内や設備の衛生維持管理が経営者に求められることや、宿泊者がその部屋に生活本拠にしないことなどがあります。

つまり、賃貸業の場合は室内が衛生的かどうかは、貸主の責任ではなく入居している方にあります。また、旅館業の場合、住民登録をしないことが前提となっています。

このように、旅館業と貸室業では明確な違いがあるわけです。

 

 規制緩和でワンルームマンションでも民泊可?

前述のとおり、民泊を始めるためには、旅館業の許可をとる必要があります。

この旅館業法は、かなり厳しい基準が定められているので、ワンルームマンションで民泊を始めるための高いハードルになっていました。

しかし、2016年4月に基準が一部が緩和されました。

これまで一律で「33㎡以上」とされていた面積基準が、「宿泊者が10人未満の場合は一人あたり3.3㎡」されたこと、また、フロントの設置が義務(簡易宿所は法律では義務づけられていないが、多くの自治体が条例で義務付けされている)であったのが、「フロントの設置が望ましい」というように改定されたことにより、ワンルームマンションでも民泊が可能といわれるようになった要因と考えられます。

それでも、ワンルームマンションや小型の事務所物件では、まだまだ難しい問題があります。
※完全にフロントが不要というわけではないので注意。自治体によっては義務付けられています。

 

民泊が難しい理由

面積基準やフロント設置義務が緩和されましたが、小型事務所やワンルームマンションは他にも問題があります。

1.用途変更

保育所に関する記事「オフィスビルで保育所を開業するには? ~保育所開業までの障害~」のときにも出てきましたが、建物は建築するときに用途を決めて行政に申告しています。マンションは「共同住宅」、オフィスや事務所は「事務所」という用途になります。民泊施設として利用する場合は「ホテル」や「旅館」という用途に変更しなければなりません。

ここで問題になるのが、保育所の時と同様に建築確認済証が無いという場合があげられるのですが、もっと重要なのは「用途地域」の問題です。

用途地域とは、都市計画法で定められた12地域のことで、住宅地や商業地、工場などを区分して、それぞれの地域に建てられる建物の用途を決めているものです。マンションは共同住宅なので、用途地域の11地域に建築可能ですが、民泊の場合、「ホテル、旅館」となるため6地域でしか認められません。つまり、「ホテル、旅館」が可能な用途地域(6地域)にあるマンションやオフィスビルしか、「ホテル、旅館」に用途変更ができないということになります。

また、事務所を居住用やホテル、旅館に用途変更をするには、設備の問題もあります。用途変更をするには、以下にあげる設備の規定があります。

  • 耐火性能
  • 排煙設備
  • 非常用照明
  • 階段の寸法、手すり
  • 廊下の幅
  • 間仕切壁の仕様
  • 採光

などが主要な規定となります。特に注意したいのは採光についてです。用途が事務所の場合、採光の規定は適用されていませんが、居住用やホテル、旅館ではこれが規定されています。オフィスの室内で、基準の採光を満たしていない場合などは、新たに窓を増やす等をしなければなりませんが、現実的には不可能なので、用途変更は難しいでしょう。

2.転貸禁止

賃貸物件においては、ほとんどの物件で転貸、つまり又貸しを禁止しています。

民泊は厳密にいうと賃貸するわけではないので、転貸にはならないのかもしれませんが、そもそも転貸を禁止している理由として、貸主が知らない第三者が利用することの危険性と何かあったときの責任の問題がありますので、ほとんどの物件で断られるのが現状です。

3.管理規約

では、自身が所有して貸主になればいいかというと、また一つ問題があります。区分所有のマンションや事務所には、入居者全員が守るルールとして「管理規約」というものを定めています。

メディアの報道でも取り上げられているように、民泊の問題点として文化の違う外国人と住民のトラブルの懸念。不特定の人が出入りする不安という理由から、管理規約の中に「民泊禁止」を明記する物件が増えてきています。管理規約で禁止されている場合、用途変更など他の壁をクリアしていても民泊はできません。尚、管理規約は議決権数の3/4以上で改定することができるので、現時点で禁止されていないとしても将来的にできなくなることもあります。

 

賃貸なら事務所可ではなく店舗可物件

ここまで書いてみると八方塞がりのようですが、100%不可能ということもないと思います。

では、どういう物件が民泊利用の可能性が高いのかというと。転貸がOKという前提で、さらにあくまでも個人的な見解になりますが、事務所可のマンション物件よりも店舗可の物件ではないかと思います。

すべての賃貸物件が転貸を禁止しているのではなく、実際にサブリースやレンタルオフィスは転貸なので、貸主の許可があれば転貸はできます。しかし、事務所やオフィスとしての利用だけ許可している物件は、不特定の人の出入りを嫌う傾向にありますので、許可を取ることは難しいと考えられます。

一方、店舗としての利用を許可している物件は、そもそも不特定多数の出入りが許可されていると考えられます。転貸OKで店舗利用ができる物件なら可能性は高いと思います。また所有物件であれば、用途変更や消防法もクリアする前提で、一棟ビルや一戸建がやりやすいのではないでしょうか。近隣とのトラブルの懸念は残りますが。

 

最後に

政府は訪日外国人数の目標を2020年には4000万人、2030年には6000万人と掲げていますが、宿泊施設不足の問題は、まだ解決の見通しが立っていないでしょう。

民泊条例の施行や、旅館業法の一部緩和など、民泊ビジネスがしやすくなるかと思いきや、内容をみてみると、宿泊日数制限など、まだまだ厳しい規制があるようです。

世界では一般的な民泊が、日本でどのようになっていくのか。今後も注視してみようと思います。