賃貸事務所で、残置物扱いの付帯設備を時折見かけます。
残置物とは、以前の入居者が貸主の承諾のもと、本来無かった設備を設置して使用していた物で、退去時にそれを撤去せずに残していった設備等のことをいいます。
事務所物件では、原則として原状に戻すこと(原状回復すること)が一般的ですが、エアコンやパーテーション、ブラインドなど、移転先には移植できない物を、貸主の承諾を得て残していくことが少なからずあります。その場合の残置物については、一般的な賃貸借契約では、貸主の所有物では無いため、修繕や撤去が必要なときは、次の入居者が行うというのが常態化しています。
しかし、はたしてこれは正しいのかどうか、残置物とは本来誰のもので、責任はどこにあるのでしょうか。
了承は譲渡
本来、賃貸借物件の入居者は退去する際に、自分の物や設置した物を撤去する原状回復の義務がありますので、その費用も当然借主の責任で行います。
しかし、移転先では使えない物や撤去するだけの物は、費用がかかりますので、そのまま使ってもらえるなら、残していったほうが、借主としてはメリットがあります。なので、貸主に残していくことを伝えて、そのまま使えそうだと判断し、了承してもらえれば、それは、退去する方にとっては非常に助かることかと思います。
ここでポイントになるのが、貸主の了承があるということ。了承するということは、貸主がその物を引き受けたということになり、譲渡された物であると判断されます。つまり、この場合は、前入居者から貸主へ所有者が移ったということになり、一般的に言われる残置物ではなくなります。
勝手に置いていった物
一方で、貸主の許可を得ずに、勝手に置いていった物はどうなるのかというと、これも結論からいうと所有者は貸主になってしまいます。
なぜなら、その残置物については、元の借主との問題であり、貸主の正しい対処としては、残された物が不要であれば、それを処分して、それにかかった費用を元の借主に請求するべきです。それをせずに、残置物をそのままにしておくということは、その物が不要ではないと判断したので、了承したかしないかに関わらず、貸主が引き受けたとみなされます。
つまり、理由はどうであれ、その物自体の存在を認めて今後も使用するのであれば、貸主の所有物として残置物ではなくなります。
「所有物ではない」は間違い
上記をまとめると、貸主が残置されたものを認めて、撤去、廃棄しなければ、それは、その物を引き受けたことになり、所有物であるとみなされるということです。したがって、ごく普通に浸透している残置物はオーナーの所有物ではないというのは間違いです。
そして、建物と一体で貸し付ける物は、所有権の有無に関わらず、賃貸借の対象になるという観点からみても、残置物であるとはいえ、修繕義務は、貸主にあるといえるでしょう。
借主の修繕義務は特約
残置物の修繕等の義務は、通常の設備同様に貸主にあるということがお分かりいただけたかと思います。しかし、それでは貸主に負担が大きく、あまりにも不利だということで、特別に借主と約束することが認められています。
契約前の重要事項説明で、残置物にあたる設備においては、借主の責任とすることを説明し、借主が承認すれば、その物の修繕義務は借主になります。つまり、広く一般的にいわれている残置物の修繕義務は借主とするというのは、普通のことではなく、特約として認められるということなんですね。ですから、事前に何の説明がなく、契約書上にも謳われていない場合には、原則として、修繕義務は貸主ということになります。
まとめ
- 残置物の所有権は、承認したかどうかに関わらず、前入居者から占有者である貸主に移る。
- 「貸主の所有物ではない」は間違い
- 残置物は前入居者と貸主の問題で、新入居者に利害関係はない。
- 原則として設備の修繕義務は貸主
- 残置物の修繕義務を借主にするのは特別な契約
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